ホーム _ フォトギャラリー _ 水奏楽
清流
長野県安曇村 番所大滝

水奏楽



ゆっくりと春は目覚める
水の濃淡を描き分けるのは
もはや絵筆ではない
波紋の遊技も
しぶきの輝きも
今ではすべて水自身がやってのける
画家は昼寝をしていればよい
写真家だってもう自由だ
すべての風景が
自分のふるまい方に驚くべき細心を払っている
一瞬静止したように膨らむ波紋の先に
白い月がとまっている
ゆるやかな坂を下りていくと
膝はすっかり軽い音色をして眠り
つま先から言葉は空へ抜け出していく




峠に立つ9人のわかもの
背後に月を背負っている
その精悍な姿
幾重もの山を越え
果てしなく駆けめぐることを
まるで弾かれた石つぶてのように
ピシピシと打つように
あたえられたいのちを舞う
わかもののすることは
「切り分ける」ということ
皮とばちと張りつめた筋肉で
空間と時間とを「切り分ける」
音は一瞬そこに止まり
姿を水に変えては落ちていく
水に言葉は刻まれることなく
音が自らを切り分けて
そこに在る




朽ちた木のほお
けもの道に筆のあと
光が駆け抜けていった細い空気を
いぶくろ深くシャラシャラ吸い込んで
スイカの種を吹くように
あの小径この小径と出穂を並べる

この日の森は
鏡のように輝いて
みどりいろのふくよかな頬を持つ
だれもが地球を懐かしむとき
右手に土を握りしめている
土は銀河の臭いをまき散らしている

森は
ここに立つことを許してくれるだろうか
ここで思うことを許してくれるだろうか
ここで愛することを許してくれるだろうか
ああ人間たちよ
言葉にできないすべてのものを
何に託して立ちつくそう

原 静鳴

Copyright(C) TOMONO Yoichiro
_